FASBとIASBは共同プロジェクトとして、共通の金融商品の会計基準の設定を目指していましたが、双方の見解の相違などから、IASBは2014年に金融商品の新しい基準書であるIFRS第9号を公表し、FASBは2016年にASU2016-01「金融資産及び金融負債の認識及び測定」を発行しました。
ASU2016-01の改訂でTopic825に関連する部分は、公正価値オプションの公正価値変動のうち商品特有の信用リスクに関連する部分を、IFRSと同様に損益ではなく「その他の包括利益」として計上することです。
目次
ASC 825の概要
ASC 825では、1.金融商品に関する開示、2.公正価値オプションおよび3.その他について規定されています。
1.金融商品に関する開示
1-1.適用範囲
公正価値の開示については、財政状態計算書に認識されたか認識されないかにかかわらず、以下の「1-2.公正価値開示」の開示は要求されません(825-10-50-8)。
- 年金、退職後給付、その他の退職給付、就業後給付、従業員ストック・オプションと株式購入制度、その他の繰延報奨の様式に関する事業主と制度の義務
- 「負債ー負債の消滅(405-20)」の開示要求の対象となる実質的な負債の消滅
- 財務保証以外の保険契約
- リース契約
- 保証義務
- 無条件の購入義務
- 持分法投資
- 非支配持分
- 資本の部に分類される持分証券
- 単純化したヘッジ会計のアプローチを採用する変動受領・固定支払いの利息スワップ
- 従業員受益制度により保有されるすべてを便益に対応させる投資契約
- 公正価値を容易に決定できない株式の測定ガイダンスで会計処理される株式への投資
- 1年以内の営業債権と債務
- 規定された満期または契約上の満期のない前受負債
- 前払いの価値を記録させた製品(プリペイドカードなど)の販売から生じる負債
1-2.公正価値開示
企業は以下のすべてを開示します(825-10-50-10)。
- 財務諸表の本体と注記のいずれかで、公正価値の見積りが実務的に可能な金融商品の公正価値
- 公正価値ヒエラルキーのレベル
財政状態計算書では、公正価値で認識された金融商品については、「公正価値測定(820)」での開示の要求も適用されます。
注記で開示される公正価値は、関連する帳簿価額と一緒に、以下の双方を明らかにする形式で開示されます(825-10-50-11)。
- 公正価値と帳簿価額は資産と負債のいずれのものか
- 帳簿価額がどのように財政状態計算書での報告と関係しているか
1-3.開示の注意点
非金融無形固定資産、有形固定資産、非金融負債のそれぞれの見積り公正価値を別個に開示することは禁止されません(825-10-50-13)。
金融商品の公正価値の開示では、企業は、金融商品が同じ区分でも(または関連するとみなされていても)、その他の金融商品とネットすることはできません。
ただし、以下のいずれかの財政状態計算書の帳簿価額の相殺を認めている範囲は相殺の例外となります(825-10-50-15)。
- 一般的な相殺の原則
- 包括相殺契約の例外、再購入と逆再購入契約に関する金額の例外
2.公正価値オプション
企業は、金融商品について、公正価値で完全に当初とその後を測定する(損益で公正価値変動を認識)取り消せない選択(公正価値オプション(fair value election)の採用)をすることができます。
公正価値オプションは、自動的な選択のための同時の文書化(または既存の文書化された方針)により支持されます。
なお、公正価値オプションの選択は、商品ベースで行われます。
2-1.適格項目の範囲
すべての企業は、公正価値を以下の項目に適用できます(825-10-15-4)。
- 認識された金融資産(financial assets)と金融負債
- 金融商品(financial instruments)のみを含む当初は認識されない確定コミットメント など
2-2.公正価値オプションの適用
すべての企業が、特定の選択日に、適格項目を公正価値で測定する選択(公正価値オプション)が認められています(825-10-25-1)。
以下のように公正価値オプションを選択する決定をします(825-10-25-2)。
- 原則として、商品ごとに選択します。
- 新しい選択日が生じないなら、変更できません。
- 特定のリスク、特定のキャッシュ・フロー、または商品の一部ではなく商品全体にのみ適用します。
公正価値オプションを選択した項目に関する、前もっての(up-front)の費用と報酬は、発生したとして損益に認識され、繰延はできません(825-10-25-3)。
2-3.選択日
企業は、以下の1つの日にのみ適格項目に公正価値オプションを選択できます(825-10-25-4)。
- 企業が適格項目を初めて認識する日
- 適格コミットメントを締結する日
- 認められていた特定の会計の条件を満たさなくなったため、公正価値で報告されていた金融資産の未実現損益が損益に含められた日
- 投資が持分法会計の対象となったため他の企業への投資の会計処理が変更された日
- 低価法、一時的でない減損による減損損失の認識または持分証券の会計を除き、事象の発生日に適格項目を公正価値で再測定することが要求されるが、それ以降の報告日では公正価値の測定が要求されない事象が発生する日
2-4.米国基準とIFRSの差異
米国基準とIFRSの重要な差異は以下の通りです。
内容 | 米国基準 | IFRS |
---|---|---|
公正価値オプションの選択条件 | 当初の認識で選択可能。IFRSのような条件はない。 | ■金融資産は、「会計上のミスマッチ」の認識または測定を消滅させる又はかなり減少させる場合に選択可能(IFRS9.4.1.5)。 ■金融負債は、「公正価値による管理」の場合も選択可能(IFRS9.4.2.2)。 |
公正価値オプションの適用 | IFRSのような禁止項目はない。 | 保険契約と金融商品でない保証などの禁止項目がある。 |
公正価値オプションの選択日 | 当初の認識日と特定のその後の日(825-10-25-1)。 | 当初の認識日のみ(IFRS9.4.1.5)。 |
2-5.商品特有の信用リスクに関連する部分の会計処理
企業が金融負債に公正価値オプションを選択した場合、企業は金融負債を公正価値で測定し、公正価値の変動を損益で認識しなければなりません。
企業は、すべての変動のうちの「商品特有の信用リスク」の変動から生じる金融負債の公正価値の部分を、「その他の包括利益」として別個に表示しなければなりません。
リスク・フリー利率またはベンチマーク利率などの基本的な市場リスクの変動から生じる金額を除いた公正価値変動の総額を、「商品特有の信用リスク」の変動の結果と考えることができます。
採用した方法を各金融負債に継続して適用しなければなりません(825-10-45-5)。
2-5-1.公正価値オプションの中止
公正価値オプションを選択した金融負債の認識の中止にあたり、企業は「商品特有の信用リスク」の変動から生じる金融負債の累積的な損益を、損益に含めなければなりません(825-10-45-6)。
3.その他
3-1.財政状態計算書に計上されない金融商品の会計処理
財政状態計算書に計上されない金融商品は、「デリバティブとヘッジ(815)」の範囲の商品を除く、財政状態計算書に計上されないリスクを持った貸付コミットメント、信用状、債務保証、その他の類似の商品に参照されます(825-10-35-3)。
財政状態計算書に計上されないリスクを持った金融商品の信用損失の引当は、認識された金融商品に関連する評価勘定と別個に記録されます(825-10-35-1)。
財政状態計算書に計上されていない金融商品の信用損失は、信用損失のための負債が決済された期間にその負債から控除されます(825-10-35-2)。