これまで、収益認識の会計処理や代替的な取り扱いを解説してきましたが、今回は収益認識の開示に関する取り扱いを解説していきたいと思います。

収益認識基準についてわかりやすく解説

収益認識の代替的な取扱いとIFRSとの差異

開示に関してはそれぞれ開示の段階で企業の実態に合わせてプロネクサスや宝印刷のひな型を確認して検討されると思いますので、全体として簡潔に記載していきます。

1.収益認識の表示

収益認識の表示を解説する前に以下を説明します。

1.契約資産、契約負債および顧客との契約から生じた債権

①契約資産および顧客との契約から生じた債権(基準77項、150-1項)

「財又はサービスを顧客に移転」しており、かつ、「対価は未受領」の場合には、契約資産を計上します。

無条件の権利(時の経過のみ)の場合は顧客との契約から生じた債権を計上します。

②契約負債(基準78項)

「財又はサービスを顧客に移転しておらず」、かつ、「対価は受領済み」の場合には、契約負債を計上します。

③契約資産と契約負債の相殺表示(基準150-2項)

個々の契約から生じた契約資産と契約負債は、純額で表示するものの、その結果として認識された複数の契約から生じた契約資産と契約負債は貸借対照表において相殺表示しない。

2.収益認識の表示

項目 表示/注記方法
顧客との契約から生じる収益の表示、および区分表示または注記
(基準78-2項、適用指針104-2項)
‣顧客との契約から生じる収益は、企業の実態に応じて、適切な科目をもって損益計算書に表示する。
例:売上高、売上収益、営業収益等
‣顧客との契約から生じる収益は、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、または注記する。
重要な金融要素の影響(受取利息または支払利息)の区分表示
(基準78-3項)
‣顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息または支払利息)は、損益計算書において区分して表示する。
契約資産、契約負債および顧客との契約から生じた債権の表示科目、および基準表示または注記
(基準79項、適用指針104-3項)
‣契約資産、契約負債および顧客との契約から生じた債権は、企業の実態に応じて、適切な科目をもって貸借対照表に表示する。
 例:契約資産…工事未収入金等、契約負債…前受金等、顧客との契約から生じた債権…売掛金/営業債権等
‣契約資産と顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に区分して表示するか、区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記する。
‣契約負債を貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記する。

2.注記事項

収益認識基準の注記としては、「重要な会計方針の注記」と「収益認識に関する注記」の2つがあります。

1.重要な会計方針の注記

重要な会計方針の注記(会計基準80-2項)

  1. 企業の主要な事業における主な履行義務の内容企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスの内容
  2. 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
上記のほか、重要な会計方針に含まれると判断されるものも対象になります(会計基準80-3項)。
代替的な取扱いを適用して「履行義務を充足する通常の時点」と「収益を認識する通常の時点」が異なる場合、重要な会計方針として「収益を認識する通常の時点」を注記します。

 2.収益認識に関する注記

開示目的(会計基準80-4項~80-6項)
顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること

規定された上記の開示目的を達成するために、収益認識に関する注記として、次の事項を注記します。

2-1.収益の分解情報
2-2.収益を理解するための基礎となる情報
2-3.当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができますが、この判断は定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があります。

2-1.収益の分解情報

顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して注記します。

  • 収益を分解する程度については、企業の実態に即した事実及び状況に応じて決定する。
  • 収益の分解に用いる区分を決定する際は、以下のような情報において、企業の収益に関する情報が他の目的でどのように開示されているかを考慮する。
    (1)財務諸表外で開示している情報(例えば、決算発表、年次報告書等)
    (2)最高経営意思決定機関が事業セグメントに関する業績評価を行うために定期的に検討している情報
    (3)企業または企業の財務諸表利用者が、企業の資源配分又は業績評価を行うために使用する情報
  • セグメント情報を開示している場合、収益の分解情報とセグメント情報の各セグメントとの売上高の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記する。

2-2.収益を理解するための基礎となる情報

1.契約及び履行義務に関する情報(ステップ1及びステップ2)

収益として認識する項目がどのような契約から生じているのかを理解するための基礎となる情報を開示します。

(1)履行義務に関する情報

履行義務の内容(企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスの内容)を注記する。

(2)重要な支払い条件に関する情報

重要な支払い条件に関する情報を注記する。

2.取引価格の算定に関する情報(ステップ3)

取引価格を算定する際に用いた見積方法、インプット及び過程に関する情報を注記する。

3.履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4)

取引価格を履行義務に配分する際に用いた見積方法、インプット及び過程に関する情報を注記する。

4.履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5)

履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)の判断および当該時点における会計処理の方法を理解できるようにするための情報を注記する。

5.収益認識に関する会計基準の適用における重要な判断

収益認識に関する会計基準を適用する際に行った判断および判断の変更のうち、顧客との契約から生じる収益の金額及び時期の決定に重要な影響を与えるものを注記する。

2-3.当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

1.契約資産および契約負債の残高等
  1. 顧客との契約から生じた債権、契約資産および契約負債の期首残高および期末残高(区分して表示していない場合)
  2. 当期に認識した収益の額のうち、期首現在の契約負債残高に含まれていた額
  3. 当期中の契約資産および契約負債の残高の重要な変動がある場合のその内容
  4. 履行義務の充足の時期と通常の支払時期との関連、並びにそれらの要因が契約資産の及び契約負債の残高に与える影響の説明
  5. 過去の期間に充足(または部分的に充足)した履行義務から、当期に識別した収益(例えば、取引価格の変動)の金額
2.残存履行義務に配分した取引価格

既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるように以下を開示します。

  1. 当期待つ時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額
  2. 上記の金額をいつ収益として見込んでいるのか(残存履行義務の残存期間に最も適した期間による定量的情報を使用した方法または定性的情報を使用した方法)
3.工事契約等から損失が見込まれる場合

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」は廃止されるため、工事契約等から損失が見込まれる場合に計上する「工事損失引当金」に関する注記が引き継がれています。

収益認識基準では、受注制作のソフトウエアについても「工事損失引当金」が計上される可能性があるため、受注制作のソフトウエアについても工事契約に準じて開示する注記する必要があります。