ターム物リスクフリーレートの作成方法

フォワード・ルッキングとバックワード・ルッキング

現在開発されている新金利指標の論点としては、ターム物金利をどのように算出するかが問題となっています。

フォワード・ルッキング:フォワードルッキングなレートは、金利決定日から見て参照期間が将来にあたるもの。
ex.)キャッシュレートやデリバティブ商品(OISや先物)を用いて、期間プレミアムを計算する手法

バックワード・ルッキング:バックワードルッキングなレートは、金利決定日から見て参照期間が過去にあたるもの
ex.)基本的に実現したRFR(O/N)を基に複利計算でターム物RFR(adjusted RFR)を計算する手法

ちなみに「参照期間」とは、年率の金利水準を決めるのに用いる期間を言います。

Backward-lookingおよびForward-lookingの用語については、FABの「Interest rate benchmark reform – overnight risk-free rates and term rates」に記載されております。

なお、現在のLIBORは将来への金利期待を含めたフォワード・ルッキングなアプローチで算出されているといえます。

SOFRはフォワード・ルッキングベース

ARRC は、LIBORを変動金利として使用する貸出などの現物取引については、市場参加者の対応を容易にするという観点から、LIBORと同様のフォワード・ルッキングなターム物レートを、SOFRを参照するデリバティブのデータを活用して開発することが重要であると考えています。

なお、ここでいうフォワード・ルッキングなターム物レートとは、過去の金利変動ではなく、将来を反映した金利という意味です。

例えば、3 ヶ月LIBOR の場合には、3 ヶ月先までを踏まえたターム・プレミアムに基づいて金利水準が決定されます。

他方で、SOFRは翌日物レートであることから、翌日までの将来しか反映されません。

従って、LIBORが持つフォワード・ルッキングなターム物レートという性質をSOFRに持たせるためには、別途SOFRに基づいたフォワード・ルッキングなターム物レートを開発していく必要があります。

SOFRに基づくフォワード・ルッキングなタームレートの開発

ARRCは、SOFRに基づくフォワード・ルッキングなターム物レートを算出する潜在的な方法として、以下のいずれかのデータを使用する案を挙げています。

  1. SOFR先物(→先物には金利期待値が含まれるため、フォワード・ルッキングなレートといえる)
  2. SOFRを参照するOIS(→OISも同様に金利期待値が含まれるため、フォワード・ルッキングなレートといえる)
  3. 執行可能な市場気配値(Actionable market price)

もっとも、既にいくつか課題も指摘されています。

まず、そもそも LIBOR に十分な実取引が存在しないことを理由としてSOFRへの移行の議論が行われてきた以上、いずれの案にせよ、ターム物レートの算出にあたって、十分な実取引に基づく必要があると考えられます。

ARRCは、実取引となるSOFR先物やSOFRを参照するOISの取引量が、ターム物レートを参照する契約の取引量よりも少ない場合には、実取引の取引量が十分ではないとの見解を示しています。

引用元: LIBOR改革の進捗と課題

SARONはバックワード・ルッキングベース

フォワード・ルッキングなアプローチの導入はO/Nレートを基礎に算出する場合には困難となるため、スイスのSARONはいち早くフォワード・ルッキングなアプローチを諦め、バックワード・ルッキングなアプローチを採用することを決定しています。

以下はSIXによる”Compounded Setting in Arrears Rate”(後決め)と”Compounded Setting in Advance Rate”(先決め)を図にしたものです。

引用元: SIX(Compound Rate for SARON)

図の下段にあるフォワード・ルッキングなLIBORは調達金利が事前にわかるため、ローンや債券側の人間はこちらを好みます。

一方、図の上段にあるバックワード・ルッキングなSARONはその金利をデリバティブでヘッジをしやすいため、デリバティブ側の人間に好まれています。

ただし、End日にならないと金利がわからないというデメリットがあるため、ローンや債券の人間にはなじまないものです。

Fixingの先決め・後決め

ターム物金利をどのように算出するかについては、フォワード・ルッキングとバックワード・ルッキングの観点とは別に、先決め・後決めの問題が存在します。

先決めレート:先決めレートとは、金利決定日から見て計算期間が将来にあたるもの
ex.)今日Fixingした金利を、今日から始まる(将来の)計算期間に適用して利息額が決まるレートの決定方法

後決めレート:後決めレートとは、金利決定日から見て計算期間が過去にあたるもの
ex.)今日が参照期間の終了時であれば、今日Fixingした金利を、今日で終わる(過去の)計算期間に適用して利息額が決まるレートの決定方法

ちなみに「計算期間」とは、複利計算で決まった年率の金利が発生する期間を言います。

なお、複利RFRには先決めレートと後決めレートがあるので注意が必要です。

なお、Compounded Setting in Advance Rate(先決め)およびCompounded Setting in Arrears Rate(後決め)の用語については、PwCの「Acceleration of LIBOR transition」に記載されております。

”フォワードルッキング・バックワードルッキング”は「参照期間」、”先決め・後決め”は「計算期間」と関連しています。

フォールバックについて

フォールバックについては、後日追記します。

参考図書